ギャンプラーの愛した数式?

2022/02/06

確率 数学 統計

 

ギャンブルに必勝法はあるのだろうか?

負けたら、次に賭金を2倍にする、また負けたらさらに2倍にする。これを繰り返したら、いつか勝つことができるので、そこで賭けるのをやめれば、確実に儲かる。

そんな必勝法を聞くことがあるが、この理屈が破綻しているのは明白である。無限に資金があるわけではないし、無限に資金があったとしても、負け続ける確率はゼロにはならないので、「いつか必ず勝つ」というのは嘘である。

10回負け続ける確率は1000分の1で小さいが、最初の賭金が1000円とすると、10回負け続けた後の賭金は100万円になっている。それで勝ったとして、利益は1000円。さらに10回負け続けると、必要な賭金は10億円。その時点での負けがやはり10億円になっているので、取り戻したいということで10億円を賭けるのだろうけど、外から見るとちょっと異常。この必勝法は成り立たない。

ギャンブルに必勝法はないが、もし、あなたが特別な能力を持っていて、勝率を50%以上にすることができたら、たとえそれが50.1%であっても、話は別である。必勝法は存在する。そんな話をしてみたい。

投資にとって非常に重要な指標に、リスクとリターンがある。

例えばSMBC証券のインデックスファンド特集では、様々なファンドのリスクとリターンの特性をわかりやすく説明している。(この図もその特集から借用)

リターンというのは、その投資によって得られると期待できる収益率で、リスクというのは、リターンのブレ幅。したがって期待を下回るのも、上回るのもリスクである。
例えば上の図で国内株式はリスクが17%、リターンが10%となっている。これは国内株式全体に投資した場合、これまでのある期間で年間10%の収益があり、その振れ幅は17%だった、ということを意味している。つまり、-7%で損失を出した場合も、逆に27%の利益が上がった場合もあったということ。この数字はどの期間を対象にするかで大きく変わる。

日経平均の2000年1月から2022年2月までの期間でリターンとリスクを出してみる。2000年1月の終値が1万9540円、そして2022年1月の終値が2万7000円。22年間で上昇が38%なので、年率に換算すると1.5%。そして毎月の月間騰落率からリスクを計算すると、19.0%となる。上の国内株式と全く違う。これじゃ投資不適格である。

リターンが大きくて、リスクが小さいのが理想であるが、そんなものはない。リターンが大きいものはリスクも大きく、ハイリスク・ハイリターンという。その逆がローリスク・ローリターンである。資金の性質によって、あるいはあなたのギャンブラー度によって、使い分けることになる。

ハイリスク・ローリターンというのは前記の日経平均みたいに存在する。これに投資すると資金を失うだけだ。

リターンとリスクを数学的に言うなら、リターンは平均期待値、リスクは標準偏差であり、値動きは正規分布するという前提にたった数字である。ただ実際は正規分布ではなく対数正規分布にしたがうとか、もっと別の分布だとか、いろいろな理論があり、投資の世界はとかく一筋縄ではいかない。

それではギャンブルはどうか。これならイカサマがない限り、確率の世界で正確に予測できるのではないか。

単純なゲームとしてコイントスや丁半博打を考える。表裏、または丁半のどちらかに賭けて、当たれば2倍に、はずれれば0になる。どちらの可能性も50%で。ショバ代は考えない。

あなたがギャンブル資金100万円を持っていて、これを増やしたい場合、どのように賭けるだろうか?

思い切りよく、100万円全部を一回の勝負に賭けたら、50%の確率で200万円になるか、スッカラカンになる。スッカラカンになったら退場である。この2つの場合の平均は100万円。

これはちょっと怖すぎるので、今度は一回の勝負を半分の50万円にしてみる。50万円なので少なくとも2回は勝負できる。その結果の持金とその確率は次のようになる。
  • 200万円 25%
  • 100万円 50%
  • 0円 25%
この場合でも平均は100万円だが、0か200ではない。中間の100つまり収益プラマイゼロという可能性が50%になり、退場確率も25%に減った。

これをリスク・リターンで言うと、リターンは変わらずに、リスクだけを減少させたことになる。投資の理屈から言えば、一回で勝負するよりは、2回に分けたほうが良いことになる。

それでは3回、4回と分割を大きくしていくとどうなるのだろうか?
そこでギャンプラ-の愛した数式(?)が出てくる。
\[ P[X=k]={}_nC_k\,p^k(1-p)^k \]
n回勝負して、k回勝つ確率\( \,P[X=k]\,\)を表現した数式で、\( \,p\,\)が一回の勝負で勝つ確率である。(この分布を二項分布と呼ぶ)

10万円の勝負を10回やった場合の結果を上の式で計算してみると次のようになる。
  • 200 0.1%
  • 180 1.0%
  • 160 4.4%
  • 140 11.7%
  • 120 20.5%
  • 100 24.6%
  • 80 20.5%
  • 60 11.7%
  • 40 4.4%
  • 20 1.0%
  • 0 0.1%
この場合のリターンはやはり100万円で、リスク(標準偏差)は32万円。このように資金を細かく分割して賭けることで、何回も勝負しなくてはならないが、そのかわりに破産リスクを小さくして、確実に収益を上げることが可能となる。

もっとも勝利確率50%なので、資産を増やすことはできず、単に長く勝負を楽しめるというだけの話であり、投資にはならない。

でも、ここで話は終わらない。

もしあなたが特別な才能を持っていて、勝利確率が50%ではなく、55%だったらどうなるかを考えてみる。

100万円の一発勝負なら結果はそれほど変わらない、200万円になる確率が55%で、退場確率が45%になり、期待値は110万円(200万円x55%)になるが、それほどあなたの才能は実感できないであろう。

それでは一回の賭金を10万円にして10回勝負すればどうなるか。
  • 200 0.3%
  • 180 2.1%
  • 160 7.6%
  • 140 16.6%
  • 120 23.8%
  • 100 23.4%
  • 80 16.0%
  • 60 7.5%
  • 40 2.3%
  • 20 0.4%
  • 0 0.0%
リターンは110万円と変わらないが、退場確率はほぼゼロになり、リスクは31万円となっている。つまりほぼ確実に10万円儲かることを意味している。

もし10回で勝負をやめず、100回まで破産しない限り続けるとした場合の結果は次のようになる。
  • 破産確率 9.0%
  • 平均残高 215万円
  • 標準偏差 89万円
破産する可能性もあるが、かなり高い確率で資金は倍になる。

現実的ではないが仮に、一回1円の勝負を100万回やったとすると、リターンはやはり110万円だが、リスクは995円。つまり100万回後の資産は110万円±995円で、絶対確実に10万円儲けることが可能になる。これを繰り返すと、理論上はほとんど上限なしに資金を増やすことができる。

このように勝率が50%を少しでも上回っていれば、確実に儲けることが可能になる。

逆に勝利確率が50%を下回っている場合、あるいは、胴元にショバ代を払う必要がある場合は、賭けを続ければ続けるほど、確実に損をすることになる。

当たり前の話になってしまったが、上記の検討から私が得た結論は次のようになる。
  1. あなたの勝率が50%のとき
    スリルを味わいたければ全資金を一発勝負に賭けるのがオススメ、そうではなく長く楽しみたいなら、全資金を細かく分けて一回の賭金を小さくするのがオススメ。
  2. あなたが勝負強く勝率が50%を超えるとき
    できる限り資金を分けて賭けるのがオススメ。これによって確実に儲けることができる。たとえば、一回の勝負に10分かかり、2時間ギャンブルをするとする。この場合なら12回の勝負ができるので、資金を12分割するのがオススメ。
  3. あなたが勝負に弱くて勝率が50%を下回るとき
    資金を分けるのはオススメできない。分ければ分けるほど、損失が確定していく。思い切って一か八かの勝負にでてスリルを楽しむのがいいだろう。
ギャンプルと言えばカジノ、カジノと言えばルーレットということで、ルーレットについて考えてみる。ヨーロピアンルーレットでは、0から36までの数字が計37個あって、0以外の数字は、半分づつ赤色と黒色に塗られている。

いろいろな賭け方があるが、一番単純なのが「赤・黒」や「偶数・奇数」に賭ける方法。これだと勝率は48.65%となる。50%より低いのは0があるから。0は「赤・黒」でも「偶数・奇数」でもないことになっている。

このルーレットで何回も勝負を繰り返すと、あなたは確実に資産を減らしていき、最善の手を尽くしたとしても、あなたの用意した賭金の1.35%を失うことになる。

これを胴元の立場から見てみよう。

毎日たくさんの人が何回も勝負するので、勝負の回数はものすごく多くなる。そしてリターンはゲームの勝率で決まり、リスクは、これまでの検討から非常に小さくなる。

全く不正をしなくても、ルーレットでわかるように、すべてのギャンブルは胴元が少しだけ有利になっている。

大型IRで毎日5万人の利用客が、一人当たり元金1万円で遊んだとする。胴元の勝率が51.35%であると想定すると、胴元は毎日、ほぼ確実に
5万x1万円x(51.35%-48.65%)=1350万円
をギャンブル収益金として上げることができる計算になる。ギャンブルで収益を上げる王道は胴元になることである。これまた当たり前。

ということで当たり前の話に終始したが、以下を教訓として、この話を終わりたい。

「もしあなたの勝率が50%未満なら、ギャンブルはやめたほうがよい」