スナイパーの力学

2022/03/15

ウクライナ 数学

 最強伝説を持つカナダ人スナイパー「ワリ」がウクライナに入国

https://www.excite.co.jp/news/article/Karapaia_52310913/


この記事によると、「ワリ」は2017年、長距離狙撃銃「マクミラン TAC-5」によって、イスラム国のテロリストを3.54kmの距離から撃ち抜いたという。

3.5kmだって! そんなことありえるのだろうか。

ということで色々調べてみると、なんと7km先の標的を射ることができるライフル(ロバエフ・アームズ社DXL-5)が開発されているらしい。

https://jp.rbth.com/science/85886-roshia-sekai-saikyou-sniper-rifle-dxl-5-wo-koukai


このような長距離を狙うためには、力学に対する知識が不可欠である。

ということでスナイパーの力学を考えてみた。


銃弾の初速を仮に秒速1000mとし、5000m先の標的を狙うことを考えてみる。空気抵抗も重力もないとすれば、真っ直ぐに狙うだけで、5秒後に標的を撃ち抜くことができる。

しかし実際には重力があるので、5秒間飛ぶ間に、銃弾は122.5mも下に落ちてしまう。これはボールを高いビルから落として5秒間で落ちる距離と同じである。

これでは目標に到達する前に地面に当たってしまうということだから、もっと上を狙う必要がある。弓で的を射るときのように、銃弾が放物線を描いて飛び、標的に当たるようにしなければならない。下の図のようなイメージである。

標的までの距離が5000m、銃弾の初速が1000m/sの場合、銃身を水平線から1°24分18秒だけ上を向けて発射すればよい。

銃弾は弧を描いて飛び、2.5秒後に31mの高さに達し、5秒後に、ちょうど5000m先で発射位置と同じ高さになる。


これは空気抵抗を考えない場合の話であるが、空気抵抗がない状態でさらに考えることがある。それは地球の自転である。

地球上を動くものは、地球の自転を受けて進行方向と直角の力を受ける。コリオリ力と呼ばれている力である。北半球の台風が左巻きになる原因の力である。

スナイパーが赤道上にいれば、この力を考慮する必要はないが、北極や南極にいるなら、大いに考慮する必要がある。中緯度地域にいても考慮は必要である。

下のグラフは秒速1000mの銃弾の軌跡を上から見たものである。真っ直ぐに撃ったのに、コリオリ力を受けてどんどん右に曲がっていく。北緯45°にいるとしたら、発射から5秒後には1.8mも右にずれてしまうことになる。

これを補正するためには、銃身を角度にして1.3秒ほど左に向けてやる必要がある。


つまり標的までの距離を図り、銃弾の速度を知っていて、銃身の仰角と振角を計算し、それに合わせてスコープの角度を調整する必要がある。

真空なら、つまり空気抵抗がなければ、これで確実に的を捉えることができる。


しかし実際には空気抵抗があり、この影響は非常に大きい上に複雑で簡単には計算できない。しかも、温度や湿度によって抵抗は変わる。風の影響も考えなければならない。

これらは膨大な実験と経験から学ぶしかないのだが、定性的には次のように考えればよい。


  • 空気抵抗はおおよそ、銃弾の速度の二乗に比例する
  • 銃弾は空気抵抗によって速度をどんどん落としていくので、右半分が詰まったような放物線を描く
  • 仰角はより大きくする必要がある
  • 標的に到達するまでの時間が長くなるので、コリオリの影響も大きくなる。このため振角も大きくする必要がある


初速度1000m/sの銃弾が最終的に310m/sまで減速して標的に到着すると仮定して、銃弾の軌跡を計算したのが下の図である。



仰角は5°6分1秒、振角は3.38秒に設定し、発射から11.7秒後に標的に到着している。

弾道の最高地点は178m、コリオリによる水平方向のズレは4.7mである。


実際の空気抵抗の大きさがどの程度かは全くわからない。ここで言えるのは、仰角や振角を大きく変える必要があることくらいである。

スナイパーが遠距離射撃をやるときは、ありとあらゆることを20分以上も計算して準備をするらしいが、わかるような気がする。


そのうちAIが出てきて、ドローンで途中の気温や湿度、風速を測定し、照準を自動的に合わせてくれるようになるのかもしれない。


本当に怖い世界になったものだ。