8月は日本にとって鎮魂の月。亡くなった人を思いつつ、今日は宇宙に思いを馳せてみようと思います。
取り上げるのは、 昨年12月25日に打ち上げられ、今年1月24日に目標軌道に到達したジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)です。
JWST
下の画像はJWSTの想像図。テニスコート大の遮光板の上に巨大な反射望遠鏡が剥き出しで乗っています。
※以下、すべての画像はNASA JAMES WEBB SPACE TELESCOPE より
Webb's First Images
軌道投入後の全ての調整が終わり、7月12日に最初の画像が公開されました。ハッブルと比較しても圧倒的な高解像度!
※以下の画像はNASAの画像をブログ用に縮小しています。オリジナル画像はNASAのサイトで楽しんでください。
イータカリーナ星雲の星形成領域「NGC 3324」
JWSTの温度
JWSTは普通の可視光ではなく赤外線領域の光をとらえています。ものすごくかすかな赤外線をとらえる必要があるので、星以外からの赤外線を極限までなくす必要があります。
このため、望遠鏡は極限まで冷却されています。物質はちょっとでも温度が上がると赤外線を放出します。また温度分布に差があると鏡が歪んだりします。
下の図は現時点での望遠鏡の温度を示したものです。華氏と絶対温度で表示されているのでわかりにくいですが、太陽や地球の方向を向いている遮光板の表面(ホットサイド)はa点が50℃、b点が13℃で、その裏側(コールドサイド)は、c点がマイナス231℃、d点がマイナス236℃となっています。
宇宙なので、太陽や地球からの光を完全に遮ると、影になった部分はこのように極低温になるのですが、観測用の機器でも中赤外線観測装置MIRI(1)は、さらにヘリウムで冷却されています。なんとマイナス267℃です。
JWSTはどこにいる?
わたしはこれまでJWSTはハッブル望遠鏡の進化系で、ハッブルと同じように地球の周りを回っているのだと思っていましたが、そうではないようです。
地球の周りを回っていると、遮光板を常に太陽の方に向けたとしても、望遠鏡側に地球や月が入ってくることが避けられません。そんな明るいものが入ってくると望遠鏡の温度が上がり、観測ができなくなります。
このため、JWSTは地球から見て太陽と反対方向に150万km行ったところにいます。月までが38万kmですから、月までの距離の4倍も遠いところにいることになります。ちなみにハッブル望遠鏡は地表から559kmの高さのところを周回しているので、桁違いです。
JWSTは地球から太陽と反対方向に150万km離れた軌道を、太陽を中心に、地球と同じ角速度で回っている人工惑星なのです。このため、地球から見たJWSTは常に太陽と反対方向に位置します。
JWSTから見ると太陽、地球、月は常に同じ方向にあるので、遮光板でこれらからの光を完全にシャットアウトできるわけです。
普通に考えると、惑星の角速度は軌道半径が大きくなると遅くなります。地球は365日で一周しますが、地球より軌道半径の大きい火星は687日です。JWSTの軌道半径は地球の軌道半径より150万km長くなり、これは地球の軌道半径の1.01倍です。この軌道にある惑星が安定する周期は370日ほどになります。
これではJWSTは「常に地球の外側にいて地球と同じ回転速度で回る」ことはできず、どんどん取り残されていきます。JWSTが地球と同じ回転速度で回るには、より強い引力が必要となるのです。
ラグランジュ点
これを解決するのが「ラグランジュ点」です。大きな天体の周りを小さな天体が回っているとき、2つの天体からの重力と遠心力がちょうど釣り合って、2つの天体からの相対位置が変わらないという点があり、それをラグランジュ点と呼び、全部で5つあることが知られています。
JWSTが位置しているのは、そのうちの2番めであるL2というラグランジュ点です。L2では、太陽からの引力と地球からの引力が重なり、JWSTの遠心力と釣り合います。このため、JWSTが地球と同じ角速度で回ることが可能となります。
ところが話はそれで終わりません。L2は不安定なラグランジュ点なのです。それよりちょっとでも地球に近づくと重力が遠心力より大きくなり、ますます地球に近づきます。逆にちょっとでも地球から離れると、重力が弱くなってますます地球から離れてしまうのです。
このようにL2は不安定ですが、L2を中心に縦方向に回る軌道は、ある程度安定しています。この軌道をハロー軌道と呼んでいます。JWSTは正確にはL2にいるのではなく、L2のハロー軌道にいるということになります。ただしこの軌道は準安定なので、定期的にジェットを噴出して補正することが必要になっています。
言葉ではわかりにくいので、NASAの解説図と動画リンクを下に示します。
JWSTは地球から太陽と反対方向に150万キロ離れたところを、地球から見て反時計回りに回っている。地球側には常に遮光板を向けており、望遠鏡は反対側にある。
軌道の動画はこちら
まとめ
人工衛星や人工惑星あるいは宇宙船の技術って、ものすごく進んでいることを改めて認識した。すごく頭のいい人と、高性能のコンピュータがなければこんな計算、ほとんど不可能に思える。
JWSTの素晴らしい宇宙画像を見ながら、天体運動の複雑さを認識することができた。本当に宇宙って面白く、奥が深い。
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