お金って何? 電子マネーとデジタル円の違い

2022/08/13

お金 デジタル円 ブロックチェーン

 8月10日のブログ「デジタル円で国債を償還」に対して、「電子マネーとデジタル円の違いがよくわからない」「そもそもお金って何?」というコメントを頂いた。

それに対してうまく答えられなかったので、今日は「お金って何? 電子マネーとデジタル円の違い」について解説してみようと思う。


お金って何?


まずは古来よりお金として使われてきたもの、あるいはお金のようなものをリストアップしてみた。

貝殻や金貨がお金として使われてきたことはよく知られている。ヤップ島には直径1mもあって財布に入れて持ち運ぶことができそうにない石でできたお金があった。

また塩、布、お米なども、一種のお金として使われてきた。

現在の日本でお金といえば、お札、硬貨、銀行預金であるが、クレジットカード、スイカ、電子マネーなどもお金として使われている。商品券もお金のようなものである。



このように形が全く異なりながら、それでも我々がどれも「お金」だと認識している、その共通するところは何だろう?

それは、これらお金のようなものを持っていれば、欲しい物や受けたいサービスを受けることができるということであろう。

人々の取引は債権と債務で成り立っている。欲しい物や受けたいサービスを受けたときに、その対価として「お金」を支払うことで、債権が移動する。これによって取引毎に台帳に記録しなくても、手元のお金を見るだけで、あとどれくらい物やサービスを購入できるかがわかる。

つまりお金は、取引におけるやり取りを記録する手段であり、それを記録する物理的なものとして、さまざまなものが使われてきたと考えれば理解しやすい。記録といってもやり取りの差し引き結果だけなので、お金の本質は「数字」である。

みんなが電卓を持ち歩き、お金を支払う代わりに自分の電卓からその金額を引き、相手の電卓にその金額をプラスするのと、基本的には同じである。ただそれだと電卓の数字を簡単に変えてしまえるのでお金にはならない。でもその電卓の数字を変えるためには、自分と相手の2人の承認が必要であり、一度表示された数字は絶対に消えたりしない、そんな電卓ならお金になりうる。

取引の結果をきちんと記録でき、改ざんができないものであれば、なんでもお金になるのである。

上の図の右上の写真は、古代メソポタミアで使われたトークンというものである。粘土で作られている。これがどのように使われたのかはっきりとはわからないが、それぞれのトークンが穀物や家畜を表しており、それを数えることで財産の在庫管理をしたと考えられている。※穀物や家畜を象徴するものなのでトークンと呼ばれる。最近はNFTなどでトークンという言葉が使われている。

一方左上のヤップ島の石貨(フェイ)であるが、普段の取引は台帳に記帳し、ある程度差額がまとまった時点で、フェイの所有権を移転したと考えられている。所有権を移転しても、フェイの置き場所は変えず、石に所有者を刻んだようである。

以上をまとめると、お金は、物やサービスの価値を数値化し、その取引結果を記録するためのものであり、記録媒体として、貝殻、金貨、現金、預金、電子マネーなどがあるということである。

電子マネーとデジタル円


次に電子マネーとデジタル円の違いについて説明する。下の図は例えばPayPayのような電子マネーで買い物をしたときの、お金の流れを示したものである。

コンビニで買い物をして、スマホでQRコードを読みとることで、支払いを行う。その結果を受けて、PayPay株式会社はあなたの銀行口座から代金を引き落とすとともに、手数料を引いた代金をコンビニの銀行口座に振り込む。

前もってチャージしたり、銀行ではなくクレジットで支払うという方法もあるが、時間差ができたり、間にクレジットカード会社が入ると言うだけで、基本的な流れは同じである。


さて、これがデジタル円だとどうなるか。
コンビニで買い物をして、スマホでQRコードを読みとることで、支払いを行うところまでは同じである。その時点で、あなたの持っているデジタル円が瞬時にコンビニに移転する。間には何も介在せず、瞬時であり、お店に手数料がかかることもない。


違いをまとめると次のようになる。
本質的な違いは法定通貨かどうかということと、銀行預金などに紐づく派生的なものではなく、デジタル円として直接発行されていることである。


違いはわかったけど、デジタル円の実体はどこにあるの? そんな疑問を持つ方がおられるかもしれない。

デジタル円の物理的実体はどこにもない。あるのは政府が管理するブロックチェーンという改ざん不可能な記録だけである。これは普通のお金でも同じだ。銀行預金はお金だが、あるのは銀行のコンピュータに記録されたデータだけ。それならお札は実体があるのかというと、あるのは印刷された紙だけ、実体というには心細い。

お金は取引結果の記録だと思えば、改ざんできないデータがお金だというのが理解できるのではないか。

ビットコインはデジタルゴールド


ここでちょっと余談になるが、ビットコインの本質について解説する。

古くから「金」がお金として使われてきたが、これは米のように食べられるからでも、布のように生活に役立つからでもない。希少な金属であって簡単には手に入らないこと、時間がたっても錆びたり腐ったりしないこと、分割ができることなどの特徴から、取引の記録にはもってこいのものだったからである。

ビットコインは、このような特徴を持つ金をデジタル世界で作り出そうとしたものである。その技術がブロックチェーンである。

金と同じように採掘(マイニング)することで、ビットコインを生み出し、それが流通するが、採掘可能なビットコインの総量は決まっており、採掘はどんどん難しくなっていくような設計になっている。これもデジタルゴールドを意識した設計である。ブロックチェーンだからそうなっているのではなく、ビットコインがそのような仕様にしているのだ。

実はこの仕様が「ビットコインが世界通貨になりえない」要因となっている。

通貨の歴史を顧みたとき、国(中央銀行)が発行する紙幣は金に紐づいていて、いつでも金に交換できます、という兌換紙幣であった。これを金本位制と言う。

金本位制のもとでは、保有する金以上の紙幣を発行することができず、金を採掘しようにも、紙幣への需要拡大に対応できるような鉱山は見つからない。この結果、拡大しようとする経済に対応するお金の供給がまにあわず、デフレとなって経済の足を引っ張ることになった。そして1970年代に金本位制は崩壊する。

ビットコインはデジタルゴールドなので、これを通貨として使った場合、デフレを引き起こすことになる。実際、当初1ビットコインでピザを買うのがせいぜいだったが、今は1ビットコインが300万円以上になっている。

仮想通貨という名称が「暗号資産」に変更されたのも、これは通貨ではないということが理由である。

またビットコインは、個人の自由を最大限に重んじ、すべての規制や国家による制約をなくそうという「リバタリアン」の思想を色濃く反映している。国家から自由になるために、政府などの管理者を必要としないデジタルゴールドを作り出したのである。

このあたりはお金の話から外れるので、このくらいで。。。