直角三角形の面積

2022/08/27

数学

有名な話なので、ご存知の方も多いのではないかでしょうか。数年前に出されたとされるマイクロソフトの入社試験の問題です。


下の絵のような直角三角形の面積を求める問題ですが、いくらなんでも簡単すぎるでしょう、と思うと罠にかかります。


底辺の長さが10、高さが6と書いてあります。それなら中学で習う三角形の面積の公式


面積=底辺x高さ÷2

から 答えは30


でもちょっと待ってください。いくらなんでもこんな簡単な問題をマイクロソフトが出すでしょうか?


実は、こんな三角形は存在しないのです。直角三角形で斜辺の長さが10であれば、高さが6になることはありえません。最大でも5です。これについて以下に解説します。


三角形の内角の和は180°


解説を理解するために、いくつかの定理を知っておく必要があります。まずは「三角形の内角の和は180°」ということです。これを説明します。



運動場かどこか広いところに三角形を書いたと考えてみてください。あなたはA地点に立って、B点の方向に歩きはじめます。そしてB点に到達したら、次はC点に向かうのですが、そのとき、あなたは反時計方向に\(180-β\)だけ回転することになります。


そしてC点に到着したら、次は反時計方向に\(180-γ\)だけ回転してA点に向かいます。A点に到達した段階で、あなたは東(上を北として)を向いています。そこで反時計方向に\(180-α\)だけ回転すると、最初の方向(Bに向かう方向)を向きます。


つまりあなたは3回の回転で、一回転つまり360°回転したことになります。

\[180-β+180-γ+180-α=360\]

\[540-(β+γ+α)=360\]

\[α+β+γ=180\]

これで三角形の内角の和が180°になると説明できました。これはどんな三角形にも当てはまります。


円に内接する三角形


直角三角形の斜辺(いちばん長い辺)の真ん中にコンパスの針を刺して、斜辺の両端を通るような円を描くと、直角になっている頂点も円上になります。言い換えると一つの辺が円の中心を通る内接三角形は直角三角形になります。



なぜそんなことが言えるのか、これも簡単に説明します。


まず三角形を円の半径で2つに分割します。三角形の斜辺の両端の角度(内角)をα、βとします。右の三角形も左の三角形も二辺が円の半径である「二等辺三角形」です。このため、もう一つの内角も、それぞれα、βとなり、「三角形の内角の和は180°」から、α+βは90°になることが言えます。


高さが6?


以上の基礎知識を前提に改めて問題の図を眺めます。この直角三角形の高さが最大になるのは、頂点がちょうど真ん中に来るときで、その時の高さは円の半径ですから、5になります。それ以外に頂点があるときは、高さは5より小さくなることが、下の絵でわかると思います。高さを6にすると、それはもう直角三角形ではありません。


なので、正解は「問題が間違っている」です。


それでも三角形は存在できる


ここで、この問題はマイクロソフトが出しているということを、今一度考えてみましょう。


コンピュータは2進数を使ってます。このためプログラムなどでは8進数とか16進数などを使うことがあります。この問題にかかれている長さの10とか6は当然十進数だと思っていましたが、どこにもそうとは書かれていません。もしかしたら8進数かもしれません。


8進数で10と書くと、これは1x8+0=8であり、十進数の8になります。6はそのまま6なので、底辺が8、高さが6ということになり、ますますありえない直角三角形になりました。


それでは16進数なら?

底辺は1x16+0=16となり、高さは6。高さが底辺の半分以下なので、こんな三角形は存在します。その時の面積を十進数で計算すると、

面積=16x6÷2=48

そしてこれを16進数で表現すると30! (48 = 3 x 16 + 0 )

実はこれは12進数以上の全てで答えは30になります。しかし、よく使われるかどうかと、三角形の形をみるかぎり、16進数だと仮定するのがよさそうです。


ということでマイクロソフト好みの回答として、以下はいかがでしょう。


面積は30です

だたしこれは16進数で表現した面積です。マイクロソフトさんですから、この長さはきっと16進数で表現されているんですよね。


非ユークリッド幾何学


これに対して、別のアプローチも考えられます。


この三角形は平面上に書くことはできません。それなら球面上に書かれているのではないでしょうか。


たとえばシンガポールはほぼ赤道上に位置します。そこから赤道に沿って7千数百キロほど西に進むとナイロビに到着します。シンガポールとナイロビの経度の差は67°です。


シンガポールからまっすぐ北に(赤道とは直角に)進むと、北極点に到達します。そこで67°時計回りに回転して南に進み、赤道まで行くとナイロビです。


シンガポール、北極、ナイロビで描く三角形は、頂角が67°ですが、底辺の角度はどちらも90°です。つまりこの三角形の内角の和は247°ということになります。このように球面上の三角形の内角の和は180°より大きくなるので、問題の図のような三角形は存在可能です。

とはいっても無数に存在するので、答えも無数ということになります。


このような幾何学を非ユークリッド幾何学と呼びます。この幾何学における直線とは、航空機にとって最短距離である大圏航路のことを指します。航空業界の入社試験なら、こちらのアプローチの方が高く評価されるかもしれません。