お金って何? 税金は必要?

2023/02/04

お金 経済 統計

防衛費増額や子供関連予算増額に対応して財源議論が騒がしい。財務省は無い袖は振れないとばかりに増税が必要という。

その一方でコロナに対してはなんの議論もなく総額100兆円を超えるような支出を行っている。

なぜ100兆円が使えるのに、1兆円や2兆円でこれだけ大騒ぎをする必要があるのだろう。それともコロナの100兆円を取り戻すべく大増税が待っているのだろうか?

ここでは、お金って何なのか、そもそも税金は必要なのかについて、整理してみました。

現代のお金はデジタル記録


日銀によると、2022年12月末時点での国内のお金は1569兆円です。
どこまでをお金とするかについては様々な統計があります。その中でも一般的なのはマネーストックと呼ばれているもので、その中でM3の数字が1569兆円です。


M3=現金通貨+預金通貨+準通貨+譲渡性預金(CD)

  • 現金通貨:日本銀行券と貨幣
  • 預金通貨:銀行の普通預金、当座預金、貯蓄預金などの要求払い預金
  • 準通貨:銀行の定期預金など解約すれば預金になる金融商品
  • 譲渡性預金(CD):銀行が無記名の預金証書を発行する定期預金。企業などが決済用に利用
1569兆円の内訳は次のようになっています。
  • 現金通貨 117兆円 7.5%
  • 預金通貨 925兆円 59.0%
  • 準通貨 495兆円 31.5%
  • 譲渡性預金(CD) 32兆円 2.0%
マネーストックではM2の統計が良く使われます。M2は、ゆうちょ銀行、農協、信用組合などの金融機関の預貯金、金銭信託を含めません。一般国民から見ると普通の銀行もゆうちょ銀行も同じように使っているので、これを含めたM3が感覚的には近いと思われます。

私たちはお金というと紙幣や貨幣を思い浮かべますが、お金全体にしめる現金通貨の割合は7.5%で、92.5%はどこかの金融機関に記録されている「デジタルな数字」なのです。

企業や組織で働いている人の大半は、給与を銀行振込で受け取っています。買い物では、現金、電子マネー、クレジットなどで支払いをしています。現金は銀行預金をおろしたもの、電子マネーも銀行預金からチャージしたもので、クレジットカードは後で銀行預金から引き落とされます。

つまり現代において、実質的に私たちが使っているお金は銀行預金、つまり「金融機関に記録された数字」と言えます。

お金の本質について知るために、以降は単純化したモデルとして、「お金=銀行預金」として話を進めます。

お金のやりとりは口座から口座への数字の移動


お金の流れについて見てみましょう。

Aさんは会社に勤めています。給与支払日に20万円がAさんの銀行口座に振り込まれました。その結果、Aさんの口座残高は20万円だけ増えます。その一方で会社の銀行口座の残高は20万円減少します。

給与支払い:Aさんの口座 +20万円、会社の口座 -20万円

つまりAさんと会社の銀行口座で、一方から一方に数字が移ったということです。銀行口座全体の残高合計は変わりません。


次にAさんはコンビニで千円の買い物をしました。現金を使うかクレジットを使うかで多少の時間差はありますが、最終的にAさんの口座の残高は千円減少し、コンビニの口座残高が千円増加します。ここでも銀行口座全体の残高合計は変わりません。

このようにお金を受け取ったり、支払ったりしても、どこかの口座からどこかの口座に数字が移るだけです。一つ一つの銀行を見ると増減はありますが、すべての銀行の預金を合計したお金の総量は変わりません。

信用創造


それでは、どんな時にお金の量が増えたり減ったりするのでしょう。

お金が増える要因の一つが「銀行からお金を借りる」ことです。例えばAさんが銀行から3000万円を借りて不動産会社から家を購入したとしましょう。Aさんは借用証書を銀行に差し入れ、銀行はその借用証書と引き換えにAさんの銀行口座の数字を3000万円増やします。悲しいことにその数字はそのまま不動産会社の口座に移動し、結果としてAさんの口座残高は変わらず不動産会社の口座が3000万円増加します。
 

Aさんが銀行から3000万円を借りたことで、不動産会社の口座が3000万円増加し、結果として、お金の総量は3000万円増えました。

これからわかるように、銀行はみなさんが貯金したお金を貸し出しているわけではありません。借用証書と引き換えに口座の数字を増やしているだけです。これによってゼロからお金が生み出されます。このことを信用創造と呼んでいます。

だからといって無制限に貸し出せるわけでありません。上の例ではAさんの口座と不動産会社の口座は異なる銀行にあります。このためAさんの口座があるB銀行は創造したお金を、不動産会社の口座があるC銀行にお金を振り込まなければなりません。

銀行から銀行へのお金の受け渡しは、日銀にある銀行の当座預金口座を通して行われます。実際には都度渡すのではなく、毎日の終わりに、その日の取引を差し引きして精算します。

その時に当座預金の口座に十分な残高がないと銀行が破綻するので、それに備えるだけの金額を当座預金に置いているわけです。どれくらいの金額を置いておく必要があるかは、法律(準備預金制度)で定められています。2022年11月の預金準備率は0.8%です。つまり手元に8万円があれば1000万円を貸し出せるということです。

このように誰かが銀行からお金を借りることで、お金が生み出されます。逆にお金を借りた人が返却することで、その分「お金」の総量は減少します。

極端な話、すべての人がすべての借金を返却すると、世の中からお金が消えてしまうことになります。それだけではありません。借りたお金には利息がつきます。30年の住宅ローンで3000万を借りた場合、返却する金額は金利にもよりますが、4000万とか場合によっては5000万もの返却が必要になります。ところがお金は借金で生み出されているのですから、みんながみんな借金を返そうとしたら、世の中のどこにもお金がなくなり、返そうにも返せないということになります。

資本主義が永遠の成長を義務付けられているのは、利息があるからですが、この話は奥が深そうなので、ここまでにしておきます。

もう一つのお金


これまで民間のお金の話をしてきましたが、もう一つのお金があります。それは日銀の中のお金です。

民間の銀行にはみなさんや企業などの預金口座があり、その合計がお金でした。同じように日銀には民間銀行の当座預金口座と政府の当座預金口座があります。2023年1月末時点で、日銀にある民間銀行の当座預金は524兆円、政府預金は20兆円です。



銀行間でのお金のやり取りや、銀行と政府の間のお金のやりとりは、日銀預金口座間の数字の移動によって行われます。

日々の取引で、銀行口座間でお金が移動します。同じ銀行の口座間の移動であれば、銀行内部で数字を付け替えるだけですが、異なる銀行の口座間移動であれば、銀行から銀行への数字の移動が必要となります。これは毎日の業務終了後に、銀行間移動の差し引きを計算し、差額について、日銀の当座預金口座間で精算(数字の移動)を行います。

政府が事業を行った時、政府は政府小切手で支払います。政府小切手というのは、日銀が支払金融機関となっている小切手です。これを受け取った企業がこの小切手を銀行に持ち込むと、銀行は日銀から支払いを受けて、持ち込んだ企業の口座にその金額を振り込みます。

日銀から銀行への支払いは、日銀にある銀行の当座預金に数字を記載することで実行されます。そして日銀はその金額を日銀にある政府預金から引き落とします。政府預金から銀行預金に金額を移すわけです。

国による通貨発行


国は通貨を発行する権利を持っています。そもそも国が通貨を発行しないと、お金というものが存在できません。通貨発行を行わない国は、米ドルなど他国通貨を自国内通貨として使うことになります。

それでは通貨はどのように発行されるのでしょうか。

一番わかり易い例は十円玉や百円玉などの硬貨です。これは政府が直接発行しています。一方紙幣は政府ではなく日銀が発行しています。2023年1月末時点での紙幣発行残高は125兆円です。

銀行が、日銀に対して紙幣を要求すると、日銀は、その銀行の日銀当座預金と引き換えに紙幣を渡します。そしてみなさんは銀行預金と引き換えに紙幣を入手することができるわけです。

国による通貨発行は、実は国債によって行われます。国債を発行し、それを銀行が購入する場合、銀行は国債の購入金額を日銀当座預金から政府預金に移すことで支払います。これによって銀行の当座預金は減少し、政府預金が増加します。

ここまでの段階では政府が銀行からお金を吸い上げただけで、新たな通貨は発行されていません。

次に日銀が銀行から国債を買い上げます。2023年1月末時点での日銀の国債保有高は564兆円です。国債発行残高はおよそ1000兆円なので、その半分以上を日銀が保有していることになります。

日銀が銀行から買い上げた国債の金額は、銀行の日銀当座預金に振り込まれ、結果として銀行の当座預金はもとに戻り、政府預金の残高だけが増えることになります。これは普通の銀行が貸し出しを行うことでお金が生み出されるのと同様に、日銀が政府に貸し出しを行うことで、政府の預金を生み出したことになります。

ところで国債は国が発行する借用証書なので、利息がつきます。日銀が保有する500兆円以上の国債にも利息が付きますが、日銀は国の子会社なので、利息はそのまま国庫に納入されます。つまり日銀が保有する国債は実質的に利息のつかない借金ということになり、返却の必要もありません。期限が来たら借り換えるだけで、永遠に無利子で借り続けることが可能で、帳簿上だけの借金ということです。

これは実質的に政府が通貨を発行しているのと同じです。回りくどいやり方ですが、途中のステップを飛ばすと次のようになります。
  • 政府が国債を発行して、それを日銀が買い取り、政府預金に金額を書き入れる
  • 日銀の持つ国債は実質的に利息を払う必要はなく、返却の必要もない
国は毎年、たくさんのお金を使うわけですが、その支払いは日銀が支払金融機関となっている政府小切手で行っています。この小切手を銀行に持ち込むと銀行は日銀から支払いを受けて、持ち込み人の口座にその金額を振込みます。日銀から銀行への支払いは、日銀にある銀行の当座預金に数字を記載することで実行されます。そして日銀はその金額の日銀にある政府預金から引き落とします。

これまでの説明で、政府は税金に頼ることなく、お金を使うことができることがわかったかと思います。政府の財源は税金ではなく、国債です。国債は借金ですが、日銀が引き受けた国債は実質的には借金ではなく、政府による通貨発行です。

政府がお金を使うと国民が豊かになる


政府がお金を使うことで、使っただけお金(マネーストック)が増加します。国民がそれだけ豊かになり、お金を使うようになります。需要が拡大し、それに応えて供給も拡大します。企業は設備に投資し、人を雇い入れます。景気が良くなるわけです。

だからといって政府がお金を使いすぎると、拡大する需要に供給が追いつかなくなります。具体的には、資源が足りなくなったり、人手が足りなくなったりします。その結果、物価が上昇します。供給能力を超えてお金を使うと、インフレになるということです。

このようなインフレは、政府がお金を使わない場合でも、景気が過熱すると発生します。企業が投資のためにお金を借り入れることで、銀行による信用創造により「お金」が増加するからです。

税金は景気のブレーキ


このように景気が過熱し、インフレが激しくなったら、景気を冷やす必要があります。その手段の一つが「税金」です。

税金というのは、「お金」を吸い上げて、日銀の政府預金に移すという行為です。政府がお金を使うのと全く逆です。これによって「お金」が減少し、需要が減少します。需要が減少すると物価が下がります。投資も減少し、お金を借りる人も減って、ますます「お金」が減少します。増税によって、逆回転が始まるわけです。

政府による財政出動が景気のアクセルだとすれば、増税は景気のブレーキです。
 


バブル崩壊とデフレ


1991年にバブルが崩壊した後、今まで30年以上、景気低迷が続いています。その結果、日本は世界から取り残されてしまいました。



バブル崩壊によって「お金」は大きく減少しました。日銀がバブル景気を冷やすべく、金融引き締めを行ったことが発端です。

バブル崩壊で経済状況が大幅に悪化したため、日銀は1998年に「ゼロ金利政策」を実施しましたが、それだけでは景気は回復しませんでした。そこで2001年には日銀が国債を買い取る「量的緩和」を行いましたが、実質GDPや賃金は伸びませんでした。

2013年に日銀は黒田バズーカとも呼ばれる「異次元の金融緩和」を実施しました。これで株価は上がったものの、景気が良くなったとは言えない状況です。

バブル崩壊後の低迷が長引いている原因は、「お金」を考えると明確です。いくら「異次元の金融緩和」で国債を買い漁っても、増えるのは銀行の日銀当座預金だけで、市中に出回っている「お金」は増えません。

市中のお金を増やせるのは「企業や個人による借金」「政府による財政出動」「減税」しかありません。金利が低くなり銀行の日銀当座預金が増えることで「企業や個人による借金」はやりやすくなっていますが、だからといって積極的に借金をして投資しようという企業は増えていません。

そして財務省のプライマリーバランス黒字化という間違った方針で、緊縮財政をおこない、さらに消費税率アップという、ブレーキをかけています。まったく真逆の対応をしているわけですから、景気低迷が長引いて当然です。

いまこそ、プライマリーバランスなどという間違った考えを捨て、「大幅な減税」と「大幅な財政支出」を行う必要があります。

財政健全化とは


財務省は財政健全化という名のもとにプライマリーバランスゼロを推進しようとしています。プライマリーバランスゼロとは、税金の範囲内で支出するということです。国の財源は税金だという考えですが、これが根本的に間違っています。

そもそも税金を払うためには、もとになる「お金」が必要です。そのお金を生み出している大本は、国による通貨発行です。今の日本の仕組みであれば、日銀が引き受ける国債です。

日銀が国債を引き受けて、政府の日銀当座預金に数字を書き入れる。政府はその当座預金を背景に財政出動して、市中にお金を供給します。これによって経済を活性化しているわけです。税金は財源ではなく「加熱した景気を冷やす」「貧富の差を少なくする」「特定の需要や供給を増減する」など経済をコントロールする手段です。

プライマリーバランスという指標は世界標準ではありません。財政健全化の世界標準は、国債の対GDP比率です。この比率を一定以下に保つことが財政健全化の目標です。

この基準に従うなら、財政健全化で一番重要な政策はGDPを伸ばすことです。国債を発行しても、それ以上にGDPが伸びるのなら国債の対GDP比率は下がり、財政は健全化するのです。

下のグラフは米国、英国、日本の債務残高の推移です。日本が抑制的であるのに対し、米国、英国は2008年のリーマンショック以降に債務残高が急増しているのがわかります。

 
しかし、債務残高の対GDP比率は下のグラフのように、日本が一番大きくなっており、英国は一倍以下に、米国も一倍程度に抑えられていることがわかります。

米国も英国もGDPが伸びているため、日本以上に国債を発行しても、債務残高の対GDP比率は低く抑えられているのです。日本の政策が目標を取り違えて失敗していることが明らかです。


プライマリーバランスゼロにGDPを伸ばすという発想はありません。ひたすら倹約して市場を低迷させ、重税で苦しんでいる懐からさらに税金を奪い取る。それによってますます消費が落ち込むという悪循環です。

今、必要なのは、「減税」と「財政出動」です。

まとめ


政府は国債を発行することで貨幣を供給することができる

  • 国債を銀行が買い取る 銀行の日銀当座預金から政府の日銀当座預金に振り替える
  • 日銀が銀行から国債を買い取る 銀行の日銀当座預金に買い取り金額がプラスされる
  • 政府は事業を行い、その経費を政府小切手で支払う
  • 政府小切手を受け取った事業者は、その小切手を銀行に持ち込み現金化する
  • 銀行はその小切手を日銀に持ち込む
  • 日銀は政府の日銀当座預金から銀行の日銀当座預金に小切手の額面分を振り替える
  • 結果として国債発行分の現金または預金という貨幣が創出される

政府の歳出でお金が増え、徴税でお金が減る

  • 事業に対する支払いはすべて政府小切手で行われる
  • 小切手を裏付けるのは政府が日銀に持っている当座預金
  • その結果、市場に出回っているお金は増加する
  • 税金は銀行を経由して政府の日銀当座預金にプラスされる
  • その結果、市場に出回っているお金は減少する

日銀保有国債は返却しなくてよい

  • 日銀に支払う利息はそのまま国庫納付金として帰ってくる
  • 償還期限がきたら借り換える
  • 日銀保有国債は政府による通貨発行と同じ
  • 永遠に国債を発行しつづけても、GDPが伸び続ける限り債務残高のGDP比は発散しない

重要なのはGDPの成長率

  • 失われた30年で債務のGDP比率が大きくなったのは、GDPが成長しなかったから
  • プライマリーバランスをゼロにするとGDPが成長せず、債務残高のGDP比は悪化する

いまこそ「減税」と「財政出動」でGDPを成長させるべき


以上 お疲れ様でした。