博士の愛した数式を解説

2022/02/01

数学

 


「博士の愛した数式」を解説といっても、映画の解説ではない。

\[ e^{i\pi}+1=0\]

という数式を直感的に理解してもらおうという無謀な試みである。

\(e\) というのはネイピア数といって2.718...という無限に続く数字である。そして \(i\)  は虚数、二乗して-1になる数。 \(\pi\)  はおなじみの円周率 3.14...

このような訳のわからない数を組み合わせると上のような数式になる。全く意味不明。

でも、以下を読めば、それを直感的に理解できる(かもしれない)。

それでは順に解説


まずはネイピア数 \(e\)

指数関数は微分しても指数関数になる。(ここでいきなり脱落する人がたくさん出そうな予感) つまり  \(2^x\)とか、\(a^x\) などという関数は、xが大きくなるにつれて急激に大きくなる。その代表的な例がコロナの感染者爆発、毎日倍々で増加して100人程度だったものがあっというまに万人を超える。そしてそんな爆発期は累積の感染者数が指数関数的に増えるが、日々の感染者数も同じように指数関数的に増える。累積感染者数に対して、日々の感染者数が微分に相当する。

話を戻して、指数関数は微分しても指数関数になるのなら、微分しても変わらない指数関数はあるのだろうか、と昔の偉い人が考えた。数式で書くと

\[\frac{d}{dx}a^x=a^x\]

を満たすようなaはどんな数値かという話。

微分の定義に基づくと、以下の式を満たすaを求めることになる。

\[\frac{d}{dx}a^x =\lim_{d\to 0}\frac{a^{(x+d)}-a^x}{d}\\ =a^x \lim_{d\to 0}\frac{a^d-1}{d}=a^x\]

ここで単純に

 \[\frac{a^d -1}{d}=1\]

を満たすaを求めてみると、

\[a^d=1+d \] \[a=(1+d)^\frac{1}{d}\]

なので、dが0に近づいたときのaが、求めたい値になる。それを \(e\) とすれば

\[e=\lim_{d\to 0}(1+d)^\frac{1}{d}\]

このようにして求められたのがネイピア数 \(e\) である。したがって

\[\frac{d}{dx}e^x=e^x\]

そしてxの前にcがつくと、微分は次のようになる。

\[\frac{d}{dx}e^{cx}=c\,e^{cx}\]

ここまでがネイピア数の解説。


次は虚数 \(i\) について解説する。二乗して-1になるなんて数字は想像できないので、ここでまた発想を変えなければならない。

まずは広いグラウンドの真ん中に杭が打ってあって、そこに如意棒(孫悟空の持っている棒でいくらでも長さが伸びるやつ)の一端がくくりつけてあるとする。そして今のところその長さは1mであるとしよう。

そこで孫悟空が「2倍になれ!」と叫ぶと如意棒は2mになる。「0.3倍になれ!」なら30cmである。では「マイナス1倍になれ!」って叫んだら?

そんな長さはないので、この場合は如意棒を杭の周りに180°まわして反対側に持って行くことにする。要するにマイナスの場合は反対側にまわすということにする。

「マイナス3倍になれ!」なら反対側にまわして、さらに長さを3mに伸ばすことになる。

そこで問題。同じ呪文を2回唱えたら、「マイナス1倍になれ!」と同じ結果になった。はたしてどんな呪文を唱えたのだろう?

なんらかの動作を2回繰り返すことで、反対側にまわるということだから、単純に考えたら、「90°まわす」がその答えになる。どちらにまわしてもよいが、数学の世界では反時計まわりにまわすのをプラス方向としている。

そしてその「90°まわす」というのが「 \(i\) 倍になれ!」という呪文である。\(i\) を掛けるというのは、如意棒を反時計回りに90°まわすことを意味している。

それなら90°ではなく30°とか45°とかまわすためには何を掛けたら良いのか?正確に説明するのはちょっと面倒なので、結論だけを言うと、

\[\cos\theta+i\,\sin\theta\]

という複素数を掛けると、如意棒を角度 \(\theta \) だけ回転させることができる。ちなみに角度 \(\theta \) は30°とか、45°という表現ではなく、長さ1mの如意棒の端が動いた長さで表現する。半径1mの円周の長さは \(2\pi\) なので、180°は \(\pi\) 、90°なら \(\frac{1}{2}\pi\) 、60°なら \(\frac{1}{3}\pi\) となる。

さて、 \(\theta \) だけ如意棒を回転させるための呪文は、「\(\cos\theta+i\,\sin\theta\) 倍になれ!」ということになるが、ちょっと長すぎて面倒だし、わかりにくい。もっとわかりやすい表現はないものか、とまた昔の偉い人が考えた。


またしても微分の話

\(\sin\) や \(\cos\) を微分すると、やはり \(\sin\) や \(\cos\) になる。正確には

\[\frac{d}{dx}\cos x=-\sin x\]

\[\frac{d}{dx}\sin x=\cos x\]

である。そこで先程の呪文(ここでは\(f(x)\)としておこう)を微分してみる。

\[f(x)=\cos x+i\,\sin x\]

\[\frac{d}{dx}f(x)=-\sin x+i\,\cos x=i\,(\cos x+i\,\sin x)=i\,f(x)\]

つまり

\[\frac{d}{dx}f(x)=i\,f(x)\]

これ、どこかでみたことがある。そう

\[\frac{d}{dx}e^{cx}=c\,e^{cx}\]

この式ではcは実数であるが、もしこのcを\(i\)に置き換えると

\[\frac{d}{dx}e^{ix}=i\,e^{ix}\]

虚数乗するなんて意味不明であるが、とにかくこの式を見る限り、

\[e^{ix}=\cos x+i\,\sin x\]

と定義すれば、すべてうまくいきそうである。

ということで昔の偉い人(オイラーさん)は、そう定義することにした。これをオイラーの公式という。オイラーらしく、\(x\) を\(\theta\) に置き換える。

\[e^{i\theta}=\cos\theta+i\,\sin\theta\]

この公式で \(\theta=\pi\) とすることにより、博士の愛した数式が導き出される。

\[ e^{i\pi}+1=0\]

感覚的に言えば、\(e^{i\theta}\) というのは、杭の周りを如意棒が反時計回りにぐるぐる回っているイメージ。そして \(\theta=\pi\) はちょうど180°回ったところ。

以上、数式だらけでちょっと大変だっただろうけど、なんとなくイメージはつかんでもらえただろうか?