失われた30年とよばれる平成不況、新型コロナ、ロシア・北朝鮮・中国という お隣さんの脅威、人口減少。。。。小松左京の日本沈没ではないが、このままでは経済的に日本は沈没していくように思える。
こんなときこそ、政府に頑張ってもらって日本に活気を注入してほしい。ということで、マクロ経済の視点から日本の現状を分析してみた。
平均賃金とGDP
まずは平均賃金の推移、OECDの統計から主要国を抜き出してプロットしたものである。この30年、日本の賃金だけが伸び悩み、他国との差がどんどん開いていることがわかる。米国との差は2倍近くになり、30年前には日本の6割だった韓国にも抜き去られた。
このように日本だけが成長していないことはGDPの推移を見てもわかる。下の図は米国、英国、日本のGDP推移である。1990年から2022年までの32年で名目GDPが、米国は4.3倍、英国は3.8倍に拡大しているのに対し、日本は1.2倍にしかなっていない
デフレ・スパイラル
GDPの伸び率とマネーストック(世の中にある現金と預金)の伸びには強い相関があることが知られている。実際に日本のGDP伸び率とマネーストック伸び率は重なるように推移している(下のグラフ)。バルル崩壊をきっかけに日本経済が縮こまってしまったことがよくわかる。
バブル崩壊→需要減・売上低下→生産量縮小・値下げ→収益悪化→リストラ・賃金カット→需要減・売上低下
これがデフレスパイラルである。企業は設備投資を抑え、人件費もカットして、生み出されたキャッシュは借入金返済にまわす。その結果マネーストックは縮小していく。マネーストックとGDPは絡み合う縄のように互いに原因となり結果となって、デフレを強固なものとしている。
こんなときこそ、政府は財政出動してマネーストックを増やすべきなのだが、「これ以上借金は増やせない」として歳出は伸ばさず、さらに消費税増税を繰り返した。その結果蟻地獄の穴がますます深くなり、デフレスパイラルからの脱却は難しくなった。
マネタリーベースとマネーストック
お金を二種類に分けて話を進める。銀行や政府が使うお金である「マネタリーベース」と、民間の個人や企業が使うお金である「マネーストック」である。
マネタリーベースは、日銀の当座預金と日本銀行券(いわゆる紙幣)で構成されている。銀行間や銀行・政府間の資金決済は日銀当座預金を使って行われる。
一方マネーストックは世の中に出回っているお金で、日本銀行券や預金をさす。我々はマネーストックを使って、様々な取引(物やサービスの販売や購入など)を行っている。キャッスレスなどで使うクレジットカート、スイカ、PayPayなどはすべて預金に紐づいている。お札などもネットのつながっていないところで使用するための一種のプリペイドカードと言えなくもない。そういう意味ではマネーストック=預金と考えても良さそうだ。
マネタリーベースは日本銀行券が120兆円、日銀当座預金が552兆円となっており、当座預金が8割以上を占めている。
このマネタリーベースは、日銀が国債などの金融資産を買い入れることで、生み出される。銀行は日銀からお金を借りることができるが、この場合も銀行が発行する借用証書という金融資産を日銀が買い入れて当座預金を生み出していると言える。
黒田バズーカと呼ばれる金融緩和は、要するに日銀が国債だけでなくETFまで、大量に購入して、当座預金を増やす、つまりマネタリーベースを増やすというオペレーションである。
一方、マネーストックは、さまざまな指標があるが、一般的に使われるM2という指標では、2022年6月で1208兆円、その内現金通貨、つまり紙幣や貨幣は114兆円で9%、残り91%の 1094兆円は普通預金や定期預金などの預金である。
このマネーストックは、企業や個人が銀行から借金することで生み出される。例えばある企業が設備投資のために一億円を借用する場合、企業は銀行に借用証を差し出し、銀行はそれと引き換えに、預金口座に一億円を記入してくれる。つまり預金というお金は借金をすることでゼロから創造される。これを信用創造という。
こうして生み出されたお金は、その企業が使ってもなくならない。どこか別の企業や個人の預金口座に移るだけである。
マネーストックは政府が財政支出することでも増加する。その仕組は次のようになる。
- 政府がある企業に一億円の工事を発注して、その代金として一億円の政府小切手を渡す。
- 小切手を受け取った企業はそれを銀行に持ち込み、一億円を預金口座に入れてもらう。
- この時点でマネーストックは一億円増加する
- 銀行は一億円を日銀に持ち込み、政府の日銀当座預金口座から一億円を銀行の日銀当座預金口座にふりこんでもらう。日銀当座預金の合計は変わらない。
このように、借金と財政支出によってマネーストックは増加する。その逆に企業や個人が借金を返済するとマネーストックは減少する。また財政支出の反対は徴税なので、政府が税金を徴収することで、マネーストックは減少する。
財務省はプライマリーバランスの黒字化を目標としているが、これは財政支出を集めた税金以下にするということであるから、「政府はマネーストックを減らすことを目標にします」と言っているのと同じである。
政府、特に財務省はこれ以上政府の負債が増えることを極端に恐れている。その結果、これ以上借金が増えたら日本が破綻するとか、将来の世代に大きな負担を残すなどのプロパガンダをおこなっている。
これは本当なのだろうか。下に米国、英国、日本の政府負債の長期推移を示す。英国については1700年から、日本についても明治からのプロットである。
日本の場合、明治からの成長が著しいものであったからであるが、1870年の負債は488万円、これが2020年には1216兆円と、2.5億倍に膨れ上がっている。それでも日本は破綻していない。(太平洋戦争敗戦後の新円切替などの事例はあるが。。)
英国や米国のカーブを見ても、経済成長と軌を一つにするように、債務残高が拡大しているのがわかる。金本位制やアメリカの中央銀行廃止などによって債務が拡大しなかった時期は、経済も成長していない。
資本主義の血液であるお金は誰かの借金でなりたっており、それには金利がつくことから「資本主義は指数関数的に成長を続けること」が絶対条件となっているのである。
失われた30年を見るために1980年以降の債務残高をプロットしたのが下のグラフである。当初こそ米国、英国を同じように推移していたものの、ITバブル崩壊を受けた2003年頃から明らかに債務の増加ペースが鈍化している。それは良いことだったはずなのに、なぜ、日本だけが債務危機なのか?
それは、債務の対GDP比率の増大である。下のグラフに債務残高の対GDP比の推移を示す。
日本だけが、2倍を超えている。財務省が危機感を持っているのはこれである。
がんばって債務残高の増加を抑えてきたのに、このようになった原因は一つ、GDPの成長がなかったからである。
GDPが成長しない→税収が伸びない→歳出を抑える→不況になりGDPが伸びない
これが現在陥っているスパイラルであり、こんな状態でプライマリーバランス黒字化の目標のもとに歳出をカットし、増税をするのは、まさに自殺行為である。
日本の債務状況は悪くない
財務省の発表によると2020年の政府債務は1216兆円。これはGDP538兆円の2.26倍になる。だから債務危機、プライマリーバランス黒字化待ったなしということだが。。。
黒田バズーカのおかげで、国債の半分近い532兆円を日銀が保有している。日銀は政府の子会社なので、政府が日銀に支払う利子は、納付金として政府に戻ってくる。このため、いくらたくさんの国債を日銀が持っていても、その利子が財政支出に影響を与えることはない。
※日銀はプライム市場に上場している株式会社で日本政府が55%の株式を持っている。
また国債の償還期限が来たら、借換債を発行して入れ替えることで、償還しなくてよい。当座預金が積み上がっている現状では、借換債の引受を心配する必要もない。
つまり日銀保有国債は政府の債務ではない。
この分を差し引くと、政府債務は684兆円となり、対GDP比は1.27倍になる。これは米国と同程度であり、それほど心配する状況ではないと言える。
まとめ
平成からの30数年、日本はデフレスパイラルに陥っている。黒田バズーカもマネタリーベースを増やしただけで、マネーストックの増大には結びついていない。
デフレから脱却するための対策は一般的に以下のように言われている。
この内アベノミクスで実行できたのは金融緩和だけであり、財政支出は増えず、減税にいたっては全く逆の増税を行ってきた。
これではデフレから脱却できないのは当然である。
新型コロナ、ロシア・北朝鮮・中国という お隣さんの脅威、人口減少。。。今はまさに国難の時期である。そのために予算も大幅に増やす必要がある。
いまこそ、大幅な財政出動と大幅な減税で、日本の安全を守り、明るい未来が見えるようにするべきである。一時的な債務増大に耐えられるだけの国力はあるし、これでGDPを拡大モードに転じさせることで、債務のGDP比率も下げることが可能になる。
もちろん財政出動すればよいというものではない。外国からワクチンを買う、米国から高い兵器を買うなどという支出はお金が海外に流るだけで、GDP増大にはつながらない。国内のインフラを整備し、国内産業を活性化するための財政支出が重要であることは論をまたない。
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