日銀の保有する国債は永遠に借り続けることが可能であり、実質的に国の負債ではない、という話を前回のブログで説明した。
https://office-moorea.blogspot.com/2022/07/lost-3-decades.html
とは言っても、帳簿に国の負債として記載され、その金額が増え続けるのは、財務官僚にとっては気持ちが悪い。国の負債ではないのなら、帳簿を分けて管理できるのが望ましい。
これについて、元財務官僚であり、現在参政党代表の松田学が、「松田プラン」という興味深い提案をしている。
「松田プラン」の本質は、米国や中国のインフラに頼らない日本のブロックチェーン共通基盤を構築し、政府のデジタル化(DX)を進めようというものだと思うが、ここでは、松田プランで提唱されている「デジタル円」について解説する。
- 日本政府がデジタル円を発行し、それと引き換えに日銀保有の国債を償還する
- デジタル円で、政府関係や民間のサービスへのアクセスが飛躍的に向上すると同時に、日銀保有の国債が消えてしまう
これが松田プランが言うデジタル円である。これだけだと「とんでも理論」にしか聞こえないので、少し解説する。
ブロックチェーン
デジタル円の前に、ブロックチェーンについて簡単に説明する。
ブロックチェーンはビットコインやイーサリアムなどの仮想通貨(現在は暗号資産と呼ぶ)を可能にしている仕組みであるが、詳しく説明すると本一冊になってしまう。
それを無理やり一言で説明すると、
ブロックチェーン=暗号技術を使ってデジタルデータの改ざんやコピーを防ぐ仕組み
ということになる。
お金をデジタル化する場合、一番心配なのが偽造である。紙幣のコピーは技術的に難しいが、デジタルデータはクリック一つで、元データと区別できないデータがいくらでもコピーできてしまう。
それではお金にならないので、ブロックチェーンという技術を使って作ったのが、ビットコインなどの暗号資産である。
最近はNFT(非代替性トークン)が話題になっているが、これはデジタルアートなどのデジタルデータを、ブロックチェーンを使ってコピーできないようにしたり、本物であることの証明(デジタル鑑定書)をしたり、持ち主であることを証明したりするものである。
このようなことを可能にするブロックチェーンであるが、実態は多数のサーバーをネットで接続した共通基盤であり、ビットコイン、イーサリアムなどを始めとして、非常に多くのブロックチェーンが存在している。
国が発行するデジタル通貨
フェイスブック(現メタ)がLibra(その後Diemに改称)という仮想通貨を発行しようとした。
ビットコインなどと違って通貨バスケットをベースとした価値が安定している仮想通貨であり、普通の通貨として使いやすいものであったが、それが故に、通貨発行の自由を奪われると懸念した当局に潰されてしまった。
通貨発行権は国が国である一丁目一番地である。Diem騒ぎも一つのきっかけになり、多くの国がデジタル通貨の検討を加速している。中でも一番進んでいるのが、中国が進めている「デジタル元」である。
ビットコインもデジタル円も、ブロックチェーンを使うという基本的な仕組みは同じで、違うのは背後に国の信用があるかどうかだけである。
前置きが長くなったが、要するに国が発行するデジタル通貨は、お札や硬貨をデジタル化したもので、偽造を防ぐためにブロックチェーンという技術を使っているという認識でよい。
日本政府が硬貨とデジタル円を発行する仕組み
デジタル円は、政府が発行する貨幣である「硬貨」に似ている。発行の仕組みも同じである。
硬貨は次のようにして発行される
- 政府の指示によって造幣局が硬貨を製造し、日銀に持ち込む
- この段階での硬貨は「お金」ではなく、単なる製造物
- 民間企業や個人は、硬貨が必要になったら、銀行から預金引き出しや両替で入手する
- 銀行は硬貨が不足しそうになったら、日銀に硬貨の発行を依頼する
- 日銀は在庫していた硬貨を銀行に渡す
- 同時に日銀は銀行の日銀当座預金から硬貨発行分の金額を、政府の日銀当座預金に振り替える
- この時点で政府にお金が流れ込む
- 同時に日銀のバランスシートに、政府の負債として発行した硬貨の金額が記載される
重要:硬貨は政府の利子がつかない負債(借用証書)である
デジタル円も考え方は硬貨と同じである。ただし硬貨と違って物理的な実体がないので、造幣局のようなものは不要である。
デジタル円は次のようにして発行される
- 民間企業や個人は、デジタル円が必要になったら、銀行から預金引き出しや両替で入手する
- 銀行は日銀にデジタル円の発行を依頼する
- 日銀は銀行にデジタル円を渡す
- 同時に日銀は銀行の日銀当座預金からデジタル円発行分の金額を、政府の日銀当座預金に振り替える。ただしこの預金は政府が勝手に使用できない「国債償還専用口座」とする
- 同時に日銀のバランスシートに、発行したデジタル円の金額を政府の負債として記載する
- 日銀は「国債償還専用口座」の預金を使って日銀が保有する国債を償還する
- この時点で日銀保有国債の残高が減少する
これらの流れはすべてデジタルなので、前もってデジタル円を作って置く必要はない。依頼から発行までのすべての手続きが人手を使わず一瞬で完結する。
重要:デジタル円は硬貨と同じく、政府の利子がつかない負債(借用証書)である
要するに
- 国債:利子がつく、分割できない、お金の代わりに使えない
- デジタル円:利子がつかない、1円単位でお金として使える
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