デジタル円で国債を償還

2022/08/10

デジタル円 ブロックチェーン 経済

 日銀の保有する国債は永遠に借り続けることが可能であり、実質的に国の負債ではない、という話を前回のブログで説明した。

https://office-moorea.blogspot.com/2022/07/lost-3-decades.html


とは言っても、帳簿に国の負債として記載され、その金額が増え続けるのは、財務官僚にとっては気持ちが悪い。国の負債ではないのなら、帳簿を分けて管理できるのが望ましい。

これについて、元財務官僚であり、現在参政党代表の松田学が、「松田プラン」という興味深い提案をしている。


「松田プラン」の本質は、米国や中国のインフラに頼らない日本のブロックチェーン共通基盤を構築し、政府のデジタル化(DX)を進めようというものだと思うが、ここでは、松田プランで提唱されている「デジタル円」について解説する。


  • 日本政府がデジタル円を発行し、それと引き換えに日銀保有の国債を償還する
  • デジタル円で、政府関係や民間のサービスへのアクセスが飛躍的に向上すると同時に、日銀保有の国債が消えてしまう


これが松田プランが言うデジタル円である。これだけだと「とんでも理論」にしか聞こえないので、少し解説する。


ブロックチェーン


デジタル円の前に、ブロックチェーンについて簡単に説明する。

ブロックチェーンはビットコインやイーサリアムなどの仮想通貨(現在は暗号資産と呼ぶ)を可能にしている仕組みであるが、詳しく説明すると本一冊になってしまう。

それを無理やり一言で説明すると、

ブロックチェーン=暗号技術を使ってデジタルデータの改ざんやコピーを防ぐ仕組み

ということになる。


お金をデジタル化する場合、一番心配なのが偽造である。紙幣のコピーは技術的に難しいが、デジタルデータはクリック一つで、元データと区別できないデータがいくらでもコピーできてしまう。

それではお金にならないので、ブロックチェーンという技術を使って作ったのが、ビットコインなどの暗号資産である。


最近はNFT(非代替性トークン)が話題になっているが、これはデジタルアートなどのデジタルデータを、ブロックチェーンを使ってコピーできないようにしたり、本物であることの証明(デジタル鑑定書)をしたり、持ち主であることを証明したりするものである。


このようなことを可能にするブロックチェーンであるが、実態は多数のサーバーをネットで接続した共通基盤であり、ビットコイン、イーサリアムなどを始めとして、非常に多くのブロックチェーンが存在している。


国が発行するデジタル通貨


フェイスブック(現メタ)がLibra(その後Diemに改称)という仮想通貨を発行しようとした。

ビットコインなどと違って通貨バスケットをベースとした価値が安定している仮想通貨であり、普通の通貨として使いやすいものであったが、それが故に、通貨発行の自由を奪われると懸念した当局に潰されてしまった。


通貨発行権は国が国である一丁目一番地である。Diem騒ぎも一つのきっかけになり、多くの国がデジタル通貨の検討を加速している。中でも一番進んでいるのが、中国が進めている「デジタル元」である。


ビットコインもデジタル円も、ブロックチェーンを使うという基本的な仕組みは同じで、違うのは背後に国の信用があるかどうかだけである。


前置きが長くなったが、要するに国が発行するデジタル通貨は、お札や硬貨をデジタル化したもので、偽造を防ぐためにブロックチェーンという技術を使っているという認識でよい。


日本政府が硬貨とデジタル円を発行する仕組み


デジタル円は、政府が発行する貨幣である「硬貨」に似ている。発行の仕組みも同じである。


硬貨は次のようにして発行される

  1. 政府の指示によって造幣局が硬貨を製造し、日銀に持ち込む
  2. この段階での硬貨は「お金」ではなく、単なる製造物
  3. 民間企業や個人は、硬貨が必要になったら、銀行から預金引き出しや両替で入手する
  4. 銀行は硬貨が不足しそうになったら、日銀に硬貨の発行を依頼する
  5. 日銀は在庫していた硬貨を銀行に渡す
  6. 同時に日銀は銀行の日銀当座預金から硬貨発行分の金額を、政府の日銀当座預金に振り替える
  7. この時点で政府にお金が流れ込む
  8. 同時に日銀のバランスシートに、政府の負債として発行した硬貨の金額が記載される

重要:硬貨は政府の利子がつかない負債(借用証書)である


デジタル円も考え方は硬貨と同じである。ただし硬貨と違って物理的な実体がないので、造幣局のようなものは不要である。



デジタル円は次のようにして発行される

  1. 民間企業や個人は、デジタル円が必要になったら、銀行から預金引き出しや両替で入手する
  2. 銀行は日銀にデジタル円の発行を依頼する
  3. 日銀は銀行にデジタル円を渡す
  4. 同時に日銀は銀行の日銀当座預金からデジタル円発行分の金額を、政府の日銀当座預金に振り替える。ただしこの預金は政府が勝手に使用できない「国債償還専用口座」とする
  5. 同時に日銀のバランスシートに、発行したデジタル円の金額を政府の負債として記載する
  6. 日銀は「国債償還専用口座」の預金を使って日銀が保有する国債を償還する
  7. この時点で日銀保有国債の残高が減少する

これらの流れはすべてデジタルなので、前もってデジタル円を作って置く必要はない。依頼から発行までのすべての手続きが人手を使わず一瞬で完結する。


重要:デジタル円は硬貨と同じく、政府の利子がつかない負債(借用証書)である


要するに


国債が政府の負債であるのと同様に、デジタル円も政府の負債である。違いは以下である。

  • 国債:利子がつく、分割できない、お金の代わりに使えない
  • デジタル円:利子がつかない、1円単位でお金として使える

国債もデジタル円も政府の負債であることを考えると、デジタル円発行で日銀保有の国債が消えるというのは不思議でもなんでもない。国債という政府の負債を、細切れにしてデジタル円という負債に変え、それを日銀が民間に売却しているのである。国債を売却するのと同じなので、日銀保有の国債が消えるのは当然である。その代わりにデジタル円(を発行した)という政府負債が日銀のバランスシートに乗っかってくる。

デジタル円発行で、民間にはデジタル円が増えるが、その分現金や預金は減少する。これはデジタル円が現金や預金と引き換えになることからわかる。つまりデジタル円発行はマネーストックには影響を与えない。

どれだけのデジタル円が出回るかは、民間がどれだけデジタル円を欲しがるかで決まる。

本当に便利な通貨になれば増えるだろうし、使い勝手が悪かったり、個人情報の保護が不十分だと疑われれば普及しない。デジタル円の設計次第である。

落とし穴


便利なデジタル円が普及して、国債も消えていく。良いことづくめに見えるが落とし穴はないのだろうか。

デジタル円の設計がうまく行って、みんながデジタル円を欲しがり、日銀保有の国債がすべて消え去ったと仮定する。それでもデジタル円への需要があるようなら、民間保有の国債を日銀が買い込むことでデジタル円を発行することは可能であるが、流石にそこまでの需要はないであろう。

このような時に、デジタル円の不具合で、例えば取引履歴が漏洩するなどの事件が発生し、デジタル円への信頼が失われたらどうなるか。

※ブロックチェーンでは全ての取引履歴が記録されている。それが第3者には見えないように設計されているが、バグ等での漏洩の可能性はゼロではない。

取り付け騒ぎのように、みんなが一斉に銀行に駆けつけ、デジタル円をお札や預金に戻すことを要求するであろう。

この場合、日銀は政府の日銀当座預金から銀行の日銀当座預金にお金を供給する必要があるが、当然ながら政府の日銀当座預金には、それだけの残高はない。

そうなると政府は国債を発行するしかなくなる。逆戻りである。このようなことのないように、しっかりとした設計が不可欠である。

松田プランについて


松田プランについては下記URLを参照


◎「松田プラン」によるデジタル円:

①利便性という価値
…スマートコントラクトで政府関係や民間のサービスへのアクセスが飛躍的に向上
(ワンストップ手続き、プッシュ型サービス)
②他の法定円通貨(キャッシュ、預金通貨)による裏付け(両替による取得)
…キャッシュの裏付けは日銀資産、預金通貨は金融システムへの信頼性
→最終的には日本円の信用そのもの
③ 発行ルールのシステム化⇒通貨としての規律
…ユーザーからの両替需要→市中銀行による日銀からの購入
→日銀からの国債償還要請→政府から日銀への供給をもって発行
④日銀が唯一の卸売店…事実上、日銀の独占的な通貨発行権の枠内
…円通貨の総量(キャッシュ+預金通貨+デジタル円)は従来通り日銀の金融政策の範疇に
⑤永久国債化で発生する収益が会計上のデジタル円のバックとも言える

「松田プラン」デジタル円は自由と自律の論理

●デジタル人民元の場合…中央集権全体主義 国民監視のツール
←中国人民銀行(共産党政府)にユーザーのデータ
●デジタル円の場合…民間が整備する新しい自律分散型「WEB3.0」が基盤に
←WEB2.0:GAFAや中国のプラットフォーマー中央集権に対抗

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